とある地にて
いつもより近くにある雲は、すぐそばの教会の屋根にそびえる十字架の後ろを颯爽と過ぎてゆく。とある地でその景色を無心で眺めていた。
なんて心地よいのだろう。
もうこのままここに住んでしまおうか。
故郷に何一つ未練などない気持ちになり、
心は段々と浮遊してゆく。
旅人はこうして行く先々で自分の残像を訪れた地に残し、目の前の放射線状に広がる道を選びとっては、特別に思ったこの地ですら後にし、思い出を美しく風化させてゆくのだろうか。
それの繰り返し。
終わることのない更新の重なり。
他人とゆるやかに繋がりながら各地を転々と流れ生きるほうが自分には合っているのかもしれない。走り去ってしまいたくなる日常のループから外れ、何が待っているか分からない地平線へと向かってゆく旅。そのことを考えはじめる。
徐々に染み出してくる感情に不安と期待を覚えつつ、出会う人々と「またね」ではなく「永遠のさよなら」の儀式のような挨拶を軽やかに交わしながら、赤い大地を後にした。
次はどこへゆこうか。
_liiiiil_
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